コーヒーのさまざまな抽出法

 コーヒーを味わうための最終段階。焙煎され粉砕されたコーヒーの成分が液体に溶け出して馥郁たる香りと深い味わいをもってカップに注がれる。それが抽出である。ここでは、抽出法、抽出器具の進化の歴史と、美味しいコーヒーを淹れるためのコツを紹介します。

コーヒーとお湯の出会い

 抽出とはコーヒーの持つ成分を引き出すことですが、成分をたくさん引き出すほどコーヒーが美味しくなるというわけではありません。コーヒーに含まれる美味しい成分を上手に引き出すことが大切です。 美味しいコーヒーを淹れるための基本原則は 、

  1. 新鮮な焙煎豆を使うこと
  2. 抽出器具に合った換き方をすること
  3. コーヒー粉は適正な分量を守ること
  4. 適切な水を使うこと
  5. 清潔な器具を使うこと
  6. 適切な抽出温度と抽出時間を守ることの6つである。

 では、先人は美味しいコーヒーを求めてどのように抽出法を工夫し、器具を発 明して進化させてきたのでしょうか。
抽出には3つの方法があり、1つ目は「煮出し法」あるいは「ボイル式」で、文字通りコーヒー豆や粉に水を加え、そのまま煮立てて抽出する方法である。したがって抽出液にはコーヒー粉が混ざっていて、粉が器の底に静まるのを待って飲用する。18世紀に入ってコーヒー粉と液体を何らかの方法で分離するようになるまで、アラビア半島からトルコを経由してヨーロッパにコーヒーが伝わった後もそのようにして飲まれていた。現代でも中近東の国々ではコーヒーを煮出して抽出するイブリックやアラビアポットが普通に使われている。1つ目は、18世紀に入って始まった「浸潰法」である。これはコーヒー粉をお湯に浸して一定時間漬け込んで成分を抽出する方法。現在一般に普及しているサイフォン、カフェプレス(フレンチプレス) などがこれにあたる。3つ目は、コーヒー粉にお湯を通過させて成分を抽出する「透過法」で、現代ではペーパードリップなどに代表される抽出方法である。初期の器具は1800年代に入って間もなくフランスで発明された。多数の小さい孔を開けた金属板がフィルターの役目をし、そこに入れたコーヒー粉にお湯を注いで粉の層を通過させる構造であった。金属板で濾されるので抽出液に粉が混じらないうえに、それ以前の抽出方法に比べてすっきりとした美味しいコーヒーを飲むことができた。

 かつて日本の多くの喫茶店で使われ、今なおファンの多いネルドリップや、カフェでよく見かけるエスプレッソも透過法に分類される。3つの抽出方法は登場した時代が異なり、一直線に系統進化したものではなく、それぞれの地域での好みもあり今も独自のコーヒー文化を形成している。

さまざまな抽出法

(1)イブリックとアラビアポット 

 煮出し法は最も古い抽出法だが、現在も根強い人気がある。代表的な器具に「イブリック」という長い柄のついた小鍋がある。細かく挽いたコーヒー粉と水、砂糖をイブリックに入れて火にかけ、煮立ったら小さなカップに注いで出す。粉がカップの底に沈むのを待って静かに上澄みの液を飲む。トルコ式コーヒー、ターキッシュコーヒーと呼ばれる飲み方である。飲み終えてカップを逆さにしておくと、どろっとしたコーヒーの粉が流れて乾燥し、カップの内側にランダムな模様を描く。その模様を見て運勢を占うのが「コーヒー占い」である。

 同じようにアラビア半島やエジプトの国々では「アラビアポット」または「べ ドウィンポット」と呼ばれる器具が使われている。コーヒー粉と水をポットの 中に入れて加熱し、吹きこぼれそうになると火から外し、泡の勢いが収まった らまた火にかけるという動作を繰り返す。これを3回ほど繰り返してでき上がった抽出液を小さなカップに注ぎ分ける。イブリックと同じ煮出し法なので、やはり抽出液にコーヒー粉が混ざっている。アラビアポットには、鳥のくちばしのように湾曲した注ぎ口に干し草を詰めてフィルターのように粉を満すものもある。

 トルコ式では真っ黒になるまで焙煎した深妙りのコーヒー粉を使うのに対して、アラビア式では極浅炒りのコーヒー粉を使用しシナモンやカルダモン、ナツメグなどの香辛料を加えて飲まれることもある。

(2)濾し袋ポット

 浸漬法は、1710年にフランスで始まったとする説がある。これはフランネル布の袋の中にコーヒー粉を詰めたもので、袋を熱湯に漬け込んで抽出したのか、袋ごと煮出したのかは定かではない。しかしコーヒー粉から分離した液体を飲用するようになったことは確かである。

 1763年にはフランスでドンマルタンが「濾し袋ポット」を発明する。ポットの底まで届く布袋にコーヒー粉を入れ、それをポットの内側に引っ掛けたもので、熱湯を注ぐとポットの底にあるコーヒー粉がお湯に浸されコーヒーの成分が溶出する。もちろん液と粉は布袋で分けられている。

(3)ドリップポット

 透過法の始まりは、1800年頃フランスでドゥ・べロワによって発明されたドリップポットである。
 ドゥ・べロワがどういう人物であったのか確かな記録は残っていないが、一説によるとナポレオンがパリ大司教デュ・べロワを美食家として絶賛していることから、発明者はこの人物だったかもしれないと言われている。 ドゥ・べロワの発明したドリップポットは上下2段のパーツに分かれている。 寸胴型になっている上部パーツの底には細かい孔が開けられた金属板がついていて、そこにコーヒー粉を入れて、別のポットで沸かしたお湯を注ぐ。すると、フィルターの役目をする金属板を通してろ過されたコーヒー液が下部パーツのポットにしたたり落ちる。それまでの煮出しや浸漬法に較べて抽出時間も短く、すっきりとした味わいを楽しむことができるようになった。このドゥ・ベロワのドリップポットがさらに進化し、布ドリップやペーパードリップへと繋がっていくのであった。

(4)ネルドリップ

 布フィルターにコーヒー粉を入れて、湯を注ぐ抽出法である、生地の表面を起毛させたフランネルという布を使うのでこの名がある。布目が細かく、また起毛しているため、粉が毛の間に抱え込まれ、蒸らし湯で粉全体が膨らんで、じっくりと抽出できる。

 ネルドリップの特長は、口当たりの滑さと味わいの柔らかさ。過の精度がよいため、雑味のないマイルドなコーヒーに仕上がる。
新品の布フィルターを使うときは、使用前にコーヒー液で煮出しておくと、抽出する際にコーヒー粉と馴染みやすくなる。日常の手入れとしては、布フィルターの清潔さと性能を保つため、使用後によく水洗いし、水に浸して冷蔵庫に保管、こまめに水替えをすることが望ましい。
布の手入れや管理などの手間は少しかかるがその味わいは格別です。

(5)ペーパードリップ

 ペーパードリップはフィルターや金属フィルターに較べて目が詰まっていることから、コーヒーオイルを通しにくく、その分すっきりした澄んだ味のコーヒーに仕上がる。また、フィルターの手入れや管理などの手間がかかるネルドリップに較べて、ドリッパーに紙フィルターをセットしてコーヒー粉を入れて抽出し、終わったらフィルターごと処分できる。清潔で簡便、現代生活に向いている。

 1908年ドイツの主婦メリタ・ベンツが考案し、その後ドリッパーの穴の数、大きさ、リブ(凸凹)の形状が違ういくつかの方式が工夫された。 簡便な方法に思われるが、湯の注ぎ方によって味が変わるので、安定した味を出すためには、ある程度の練習が必要です。

(6)サイフォン

 サイフォン抽出は「浸漬法」に分類される。“サイフォン”はギリシァ語で「チューブ、管」を意味する言葉。加熱で生じる蒸気圧の作用で液体が管を行き来する動きが視覚的にも楽しめ演出効果の高い抽出器具である

  最も初期の「天秤式サイフォン」は19世紀に英国で発明された。加熱容器に水を入れ、もう一方のガラス容器にコーヒー粉を入れる。アルコールランプに点火し水が沸騰するのを待って、加熱容器上部の気密栓をしっかりと閉めると、容器内の気圧が高まって沸騰した水が管を通って上側のガラス容器に押し出される。ここで粉とお湯が混ざり合ってコーヒーが抽出される。現代のサイフォンはガラス製で上下2段式だが、液体が行き来する原理は天秤式と同じである。高温で抽出するので、すっきりとした後口で香り立ちもよい。

(7)パーコレーター

「浸漬法」による抽出器具の一つで、パーコレートは「浸透する」という意味である。フィルターの役目をする金属製のバスケットにコーヒー粉を入れ、その上に粉を押さえる小孔の開いた散水板を重ねて置いて、水を入れたポットの内部にセットする。火にかけて加熱するとお湯が細かい管を通ってポット上に移動して管の上端から噴水にように噴き出して散水板を通りコーヒーの粉に滴下される。これを繰り返してお湯がポットの中を循環するうちにだんだん抽出液の濃度が濃くなりでき上がりに近づいていくのである。

 パーコレーターは1806年にパリにおいてイギリス人科学者べンジャミン・トンプソン(別名ラムフォード伯爵)によって発明された。19世紀に英国で量産され、容易に抽出できることからアメリカでも復旧した。

(8)水出し抽出

 水出し抽出は「透過法」と「浸漬法」の2種類の器具がある。 昔ながらの方法は専用の器具を用いて、常温の水をポタポタとコーヒー粉の上に落とし、時間をかけてコーヒー成分を抽出する。別名、ウォータードリップやダッチコーヒーと呼ばれる、透過による抽出である。「ダッチ」はオランダを意味し、直訳すれば「オランダ式コーヒー」となるが、オランダ本国では一般的ではない。

 水出し抽出をダッチコーヒーと呼ぶのは、オランダがインドネシアを領有していた頃、現地で苦味の強いカネフォラ種 (ロブスタ)を少しでも美味しく飲むため、常温水に浸して抽出したことに由来すると伝えられている。
コーヒー専門店の店頭では、凝ったデザインの水出し器具を見かけることが多くなった。

 家庭向けには手軽に抽出できるポット型の器具が市販されている。専用のポットにアイスコーヒー用の粉と水をセットし、3~12時間ほどで水出しコーヒーができ上がる。浸漬による抽出である。水出し抽出は、熱を加えないので香りが逃げず、コーヒーの甘味とまろやかな苦味を楽しめるとして愛好する人も多い。

(9)エスプレッソ

エスプレッソとは、英語のエキスプレス、急行のことである。細挽きのコーヒー粉に、蒸気圧のかかった湯で「短時間でコーヒーを抽出する」ことからそう名づけられた。イタリアではバール(BAR)と呼ばれる立ち飲みコーヒー店で、よく飲まれる。イタリア人はこれに1~2杯の砂糖を入れて、1~3口で飲み干し、さっさと立ち去る。

 19世紀後半からイタリアとフランスで、蒸気圧を利用してコーヒー抽出する試みが盛んに行われていた。鉱山や工場の機械に蒸気機関が使われ始め、蒸気機関車が登場し、人々が蒸気というものの威力と扱い方を知った時期である。1855年のパリ万博では、蒸気を利用した巨大なコーヒー抽出器で、1時間に2000杯分を抽出しサービスしたと言われる。これが人気を博してヨーロッパに広まった。

  現在のエスプレッソマシンの原型は、1901年ミラノのルイジ・べゼラが発明した「エスプレッソマシン」という名の業務用コーヒー抽出機である。彼が初めて特許を取得した。それ以来、蒸気で抽出するコーヒーを「エスプレッソ」 と呼ぶようになった。

 その後、ベゼラから特許使用権を買い取ったデシデリオ・パボーニが1906年のミラノ万博に「べゼラ」という名前の大型エスプレッソマシンを出品したのを機に、エスプレッソの名前と機械が世界中に知られるようになった。

 エスプレッソマシンで流れたエスプレッソの特長は、表面にできるきめ細かくて濃密な泡(クレマ)である。上質なクレマはスプーンでかき混ぜても消えるようなものではない。クレマに守られて、コクと深みが凝縮された「ボディ感」の高い層があり、飲み干したとき芳醇な余韻が後を引く。

 濃厚なイメージの強いエスプレッソであるが、じつはカフェインが少ないというのも特徴の1つです。

 イタリアでは、直下式エスプレッソが一般家庭で使用されている(ただし、これは蒸気圧が低く、前述のエスプレッソマシンによる抽出とは味わいがやや異なる)

 使う豆の焙煎度は、イタリアンロースト(極深煎り)が使われていたが、昨今ではコーヒーそのものの味わいを重視する傾向にあり、炒り方は比較的浅めになってきている。粒度は「極細挽き」を用いる。1杯の分量はシングル(ソロ)の場合約7gのコーヒー粉を使い、25ml~35mlの液を抽出する。

参考資料「UCCコーヒー博物館」より